文豪たこのくっついて~スミはいて~

おもしろさ第一、役に立つこと第ニ

Tacomi式世界①「ビデとヒデ」

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トイレに備えつけられているボタン「ビデ」を、ぼくはずっと「ヒデ」だと思っていた。

 

そもそも、「多分おしりの穴を洗ってくれるやつなのかなぁ」という勘違いをしていた。ヒデを押すと、おしりの下からヒデっていう人が顔を出して、おしりを洗う旨を伝えて奥に引っ込んで、ぺろぺろぺろぺろ穴の汚れを拭き取ってくれるんじゃないかと、最近まで本気で信じていた。

 

純粋な子どもの頃は、「なーんでヒデっていう人に、おしりの穴をなめられないといけないのっ!?」と疑問に思い、ぼくは身震いしてヒデ存在不要説を抱いていた。もし、進んで押す人がいるとしたら、ホモの人が必要としているボタンだろうと思っていた。

 

性欲が染みついた大人になってからは、「あっ! もしかしたらヒデって、ヒデミとかヒデコの略かも! これワンチャンあんじゃね!?」と、よくよく考えてみたらこれほどエッチで男性にとって嬉しいことはないだろう! と思ったことがある。その時に、一瞬ヒデを押して気持ちよくなってみようかどうか迷ったが、でもやっぱり考えてみると、なんか「ヒデミ」とか「ヒデコ」って昔の感じが漂う名前だし、もしおしりの下からおばあちゃんの顔が出てきて、「ほーれ! 今からケツさ洗うべー!」とか言われるのも嫌だな…と萎えたのでやめておいた。

 

ところが、介護士として老人ホームで働くようになってから、ついにヒデを押す機会があったのだ!
それは、ちょうど女性職員が忙しかった時。「まぁーだかー!?」「おーうい! 早く拭いとくれぇーい!」と、トイレに入っていた、手が不自由なおばあちゃんがずーっと叫んでいた。

基本、異性介助はダメだったのだが、「あーもう! ここは行くしかねぇじゃん!」とムシャクシャしたぼくがトイレに入って、おばあちゃんのおしりを拭いてあげた。

 

ところが、おばあちゃんが「にいちゃん、これ押してぇ」とヒデを指差すので、ぼくは「ええっ!」と驚いてしまった。このおばあちゃんは、ヒデにおしりの穴をなめられたいのか! その覚悟があるというのか! そんなぼくも、あのヒデの正体を見てみたかったので、ややファイティングポーズを取りながら、「じゃあ、いいですか? いきますよ? うりゃあああ!」と決死の覚悟でヒデを押した。

 

あっ! でも近頃はAIも発達しているし、もしかしたら、攻撃力の高いAIヒデが「オマエハデテイケ。フタリノジカンヲジャマスルナ」とか言ってレーザーでも撃ってくるかもしれないっ! と、とっさにファイティングポーズからガードに切り替えたのだが、ウィーンという機械音がしたのち、おばあちゃんは「みょ〜♡」とか「ぬぅ〜♡」とか、目をつむって気持ち良さそうにしていた。あれっ?

 

その間、ぼくはおばあちゃんにインタビューしてみた。
「あ、あのー、ヒデってどんな人なんですか?」
「ひでぇ?」
「ほら、ぼく、今ヒデ押したじゃないですか。いや、どんな人がおしりを洗ってくれてるのかなーと思って。やっぱり、あれですか、おばあちゃんは特に警戒もしてなさそうだったから、もう亡くなられた旦那さんに似たヒデゾウとかヒデキチみたいな顔したおじいちゃんが出てきて洗ってくれたとかですかっ!?」
「おめぇ、さっきからなーに言ってんだ? ヒデじゃなくてビデな、ビ・デ!」
「へっ!?」
あ! 確かに「ビデ」って書いてある!! ヒデじゃない! 
「じゃあ、ダビデっぽい人が出てくるんですか!?」

おばあちゃんはあきれて、便座に座ったまま、トイレの中で10分くらいビデの講義をしてくれた。ぼくはそのあと、長時間座らせておばあちゃんのおしりが赤くなってしまったというので、ヒヤリハットを書いたのだった。トホホ。