文豪たこのくっついて~スミはいて~

おもしろさ第一、役に立つこと第ニ

Tacomi式世界⑱「モリモリデー」

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「来週、モリモリデーがあります」

 

帰りの会の最中、先生がニヤニヤしながら言った。

 

なんだそれは。

 

ぼくは想像力をフルに働かせて考えた。

 

「森くんや森さんが1日王様になってみんなを奴隷扱いできる日」

 

もしくは

 

「みんなで校庭に集まって、せーので下からモリモリ出す日」

 

なのかもしれない。

 

一日奴隷になるにしろ、校庭に出てせーのでみんなで脱糞するにしろ、これはどういうことだろう。ギネスブックにでも載せるのだろうか? 

 

などと勝手に話を頭の中で進め、勝手に脅えていたところ、

 

「クラス全員が給食を残さずにモリモリ食べたら、次の日にご褒美としてデザートが付いてくるという行事です」

 

先生はイベントの主旨を話してくれた。

 

それを聞いて一日奴隷と面前脱糞は逃れたものの、依然としてぼくは脅えていた。

 

少食派のぼくは、好きな牛乳以外、いつも給食はほとんど残す派だったからだ。

 

こういうイベントの時、この5年2組は謎の一致団結を見せるので困る。

 

「よっしゃ! いいかおまえら! 全員食べて他の組に勝つぞー!」

 

と、リーダー格の男子が自分の机に乗って民衆を鼓舞していた。「おー」とか言われてよかったと思うけど、おまえに何の権利があるの?

 

そう。いつのまにか、デザートを目的とするのではなく、クラス対抗戦みたいな感じにシフトチェンジしている。やめてくれ。

 

モリモリデーは、必ず残す奴をどうサポートするかが勝利兼デザートへのカギとなる。

 

いつも見ている限り、ぼく以外はみんな残さずに食べていたので、ぼくへのサポートが重要になってくる。

 

そして、拷問日当日。

 

期待0と不安100を胸に献立表を見た。

 

今日のお昼のメニューは…

 

・ごはん
・ちくわの磯辺揚げ
・ひじきの煮物
・ほうれん草の胡麻和え
・牛乳

 

…いや渋くね?

 

当時、好き嫌いの嫌いが多かったぼくとしては、モリモリデーさえなければ、牛乳だけ飲んでごちそうさまでした、なメニューだった。

 

牛乳以外全部残飯確定献立。

 

なので、お昼になって給食当番から給食をもらう時に

 

「少なめにしろよ。後でブルーアイズのカードあげるから」

 

と、ひそひそと脅迫及び買収をして、量を基準以下にしてもらった。

 

にしてもメニューの色合いが渋い。ぼくのは少ない分、まるで修行僧の朝食みたいな昼食だった。

 

くっつけられている自分の席に戻り、号令がかかった瞬間、周りの目つきが変わった。

 

対面に座っている女子も、隣に座っている男子も、モリモリというか、ライオンのようにガツガツかきこんでいる。マジかよ。

 

ぼくも食間にため息を吐きつつ、ちびちびと箸を進め、牛乳で流し込む戦闘スタイルを取っていた。

 

スカウターで測れば「食事戦闘力はたったの5か、ふん、ゴミめ」とサイヤ人に言われてしまうだろう。

 

ぼくのしかめっ面を見かねた友達の何人かが、「やるよ」と言って紙パックの牛乳を寄付してくれた。ありがたい。ストックとして残しておこう。

 

給食時間終了10分前。

 

気が付けば、ぼくの机の周りをみんながぐるぐると踊りながら「あと一人コール」を手拍子を入れてやっていた。どこの部族の雨ごいの儀式だよ。

 

白米は食べたけど、依然としておかずだけ頑固に残っているというか頑固に食べていないという絶望的なこの状況。

 

ぼくはうなだれて、元気がなかった。既に限界がきている。

 

また見かねた友達が

 

「みんなー! おもしろいこと言って応援しようぜ!」

 

と言い出すと、よくギャグをやる男子がぼくの机の前に出てきた。

 

「右手に精子……左手に卵子……合体っ! 受精卵っ!(こちらにパーにした手を広げる)」

「…」


「彫刻家もおなら超こくか?」
「…」

 

「おち〇ことおち〇このシワを合わせてしあわせ♡ なーむー」

「ぐっ」

 

いかにも芸人が滑りそうな下ネタを勇気を出して繰り広げてくれたが、お仏壇のCMをパクったやつがちょっとツボに入って笑ってしまった。ちょっと元気が出た。

 

「じゃあ今度はおれのターン」

 

何を見せてくれるのだろうか。

 

「伸びろ! 如意棒!」

「…」


「出でよち○こ! そして願いを叶えたまえ!」

「…」


「おっす! オラち○こ!」

「ぐっ」

 

不覚にもおっすオラち○こで笑ってしまい、だんだん元気が出てきた。

 

ぼくはスパートをかけた。おかずを口に詰め込めるだけ詰め込んだ。

 

ちょうど審査員として、給食を作ってくれるおばちゃんも巡回にやって来ていたので、なんかもう食べ切らないわけにはいかない。

 

ストックとしてもらっておいた大量の牛乳で、口に溜め込んだおかずたちを流し込もうとゴクゴク飲む。

 

そして。

 

壁に掛けられた時計で、残り時間10秒というところにさしかかった。

 

「ごっくん!」「ごっくん!」「ごっくん!」

 

クラスメイトたちが手拍子とともに後押しをする。

 

……めっちゃ苦しい。

 

ほっぺたをパンパンにしたぼくの顔が苦悶に満ちていたせいか、男子がまだぼくを元気付けようと「最終手段!」と言って、スカートを履いているぼくの好きな女子に近付いて行った。

 

まさか。

 

やめろ。

 

「ペロリィーン!」

 

花柄のパンツが視界に入った。

 

眼福。

 

その瞬間。

 

ごくん。

 

飲み込めた! と思いきや。

 

ぼくの両方の鼻の穴から、牛乳の滝がとめどなく流れ出てきた。

 

鼻たら牛乳の判定はアウトだった。

 

Tacomi式世界⑰「夢十嫌」

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これは、「こんな夢を見た」で始まる夏目漱石の『夢十夜』をもじった作品です。

 

あれは、鼻をほじって蓄えたものを収穫して食す癖があった、しょうもない小学校1年生の頃。

 

 

 

ぼくは2歳年下の妹と一緒に『セーラームーン』をよく観ていた。

 

中でも、愛野美奈子(セーラービーナス)が初めて登場した時、あまりの可愛さとセクシーさに心臓をビーナス・ラブ・ミー・チェーンで射抜かれてしまった。

 

セーラービーナスが登場するたびに、ぼくは鼻の工事を一時中断し、ほっぺたと耳に血が巡って赤くなるのを感じ、たまに鼻血も出しつつも画面を凝視してうへうへしていた。

 

ただ、ぼくは一つだけ不満があった。

 

悪いやつらとの戦闘シーンのたびに、確かに激しいアクションをしているのにも関わらず、どうしてもミニスカートの中にあるパンツが見えそうで見えないあの感じがもどかしかったのだ。

 

くそっ! 一体なぜなんだ!?

 

鼻血を抑えるためにティッシュを鼻に詰め込んだぼくは立ち上がって、握りこぶしをつくった。

 

疑問はやがて確信に変わらず、探求へと変わった。

 

愛野美奈子に会って、パンツを見たい…」

 

仮に、今こんなことを警察官の前で口にしたら、犯罪者の誕生を宣告したと共に、すぐに一般人としての一生を終えるだろう。

 

この年齢だからこそ許される。

 

小1にして、テロリストならぬエロリストである。

 

今はむしろ「てか男なんてみんなそうじゃね?」と、ヒラキナオリストとして筆を取っている。

 

ぼくは、ある作戦を思いついていたのだ。

 

そしてある夜、ついにぼくは作戦を決行した。

 

妹が指をしゃぶりながらおねんねした後に、妹の机に置いてあったセーラームーンのぬりえの本をコッソリ盗み、セーラービーナスのページを開いて自分の枕の下に入れ、頭から布団をかぶった。

 

ぼくは布団の中で、手を組んで揺らしながらお祈りした。

 

「神様、仏様、セーラービーナスのパンツが見られますように…いっしょーのお願い!! 神様、仏様、セーラービーナスのパンツが見られますように…いっしょーのお願い!!」

 

神も仏もそんな犯罪行為を許すはずがないし、逆に裁く側だと思うが、この時のぼくはこういうおまじないをすれば夢が叶うと『ドラえもん』でのび太が言っていたことを信じていた。

 

そして、唱えるうちに睡魔が襲ってきた。

 

こんな夢を見た。

 

ぼくは学校の自分のクラスにいた。

 

制服姿の愛野美奈子がぼくに近寄り、「ねぇ一緒に帰らないっ?」と言ってきた。

 

こんなの断るわけがない。夢だから、このありえない状況も不審に思わなかった。願ったり叶ったりだ。

 

「いいよ」と言って、並んで歩いていた帰り道、突然地面の下から悪そうなモグラ怪人が現れた。

 

「殺してやるー」と言って爪を光らせている。

 

ぼくは足が震えて動けなかったけど、すぐに愛野美奈子が「ヴィーナス・パワー・メイクアップ!」と言って、セーラービーナスに変身した。

 

あ、パンツ見れる。

 

「私が相手よ! ヴィーナス・ラブ・ミー・チェーン!」

 

「うがああ!」

 

怪人は必殺技をくらって倒れた。

 

「うがああ!」

 

ぼくはパンチラをくらって倒れた。

 

パンツ、白かったな…。

 

眼福。

 

パンツは白かったけど、倒れたぼくは赤かった。

 

マンガのように鼻血ブーしてしまい、服が血で汚れていた。

 

仰向けのぼくにセーラービーナスが駆け寄り、肩を揺すってきた。

 

「だっ、大丈夫っ!? 攻撃されたのっ?」

 

「うん。ある意味ね」

 

「大変…! すぐ救急車呼ばなきゃ!」

 

ああ、いい匂い。

 

ああ、こんなに柔らかそうな太ももが近くにある。

 

ぼくは我慢ならなかった。

 

これはもういくしかない。

 

ぼくは思い切って、セーラービーナスの太ももに顔を擦り寄せようとした。

 

その時。

 

……

 

……

 

あれ…?

 

まぶたの重さを認識した。

 

窓の外は明るみ始めている。

 

寝ぼけまなこで、柔らかい太ももに顔をもう一度摺り寄せた。

 

しかし。

 

徐々に目覚めると、何かが違う。

 

目の前には、毛むくじゃらの太ももがそびえていた。

 

どうやら、隣でゴアゴアといびきをかいて寝ていた父親の太ももに顔を擦り付けていたらしい。

 

嫌ぁぁぁ! ぼくのビーナスを返せ。

 

Tacomi式世界⑯「ろしゅつきょうとの対決」

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ぼくは小学校3年生の頃、「ろしゅつきょう」という言葉を初めて聞いた。

 

「昨日、〇〇駅の近くでろしゅつきょうの男が出ました。他の学校の女子に向けて、ズボンとパンツを下ろして見せて逃げていったそうです。みんな、登下校の時は注意してね」

 

先生はそう注意を呼びかけた。

 

だけど、ぼくは「ろしゅつきょう」とはどんな漢字を当てるのか知らなかったので、想像を膨らませた。

 

さて、以前ブログにも書いたが、ぼくは『勘違い検定1級』の所持者である。読者の皆様は嫌な予感がよぎったことだと思う。

 

ぼくは今まで習った漢字を思い出してノートに書いて「ろしゅつきょう」に当てはめたら、「路出教」になった。

 

こっ、これは…!!

 

「路上に出て、ち〇ち〇を見せる宗教活動をしている人」に違いない!

 

読者の皆様、安心して下さい。意味的に間違いではないですよね。正式には「露出狂」ですが。

 

よーし!

 

路出教の出た〇〇駅付近はぼくの通学路ではなかったけど、ぼくは気合いが入っていた。

 

「路出教をやっつけて、好きな女子のA子ちゃんを彼女にする良いチャーンス!」

 

だと思った。A子ちゃんは駅の方が通学路なはずだ。

 

要は、ボディガードである。

 

かと言って、A子ちゃんと一緒に帰っているところを他の男子たちに見られたら、「ヘイヘーイ! おまえら付き合ってんのかよー!」とイジられそうなので、A子ちゃんを見守るという形で、尾行を決心した。

 

要は、ストーカーである。

 

そして、放課後。

 

電信柱や車の陰に隠れつつ尾行して、ついに駅までやってきた。

 

家と学校を往復するだけの毎日を送るぼくにしたら、新鮮な光景だ。

 

どうやら、A子ちゃんは線路を挟んだ向こう側に住んでいるらしい。跨線橋の階段を昇り始めていた。

 

その時。

 

むむっ! あれはっ!?

 

階段を昇るA子ちゃんの後を、不審な格好をしたおじいちゃんが後をつけているように見えた。

 

でっかい麦わら帽子のようなものを深くかぶって、杖をついている。

 

もしかして…!!

 

と思ったのも束の間、今度は跨線橋を昇りきったところにある改札付近で、汗だくになりながらやたらと身振り手振りをして騒いでいるおじさんが見えた。

 

おじさんの周りには人だかりができていて、みんな真面目そうな顔をして聞いている。

 

もしかして…!!

 

なんか2人とも宗教っぽいぞ!

 

路出教だ!!

 

A子ちゃんと他のみんなが、あいつらにち〇ち〇とかケツを見せられる前に、ぼくが何とかしなくちゃ!

 

幸運にも、ぼくは跨線橋を渡った向こう側に交番があるのが見えた。

 

しめた!

 

使命感を燃やす材料がそろったぼくは、慎重に路出教2人の動向を伺いながら歩く。

 

ち〇ち〇を出そうものなら、すぐにぼくが行って玉ごと蹴ってほひーほひー言わせてやる。

 

だが今のところ、ち〇ち〇を見せる様子はない。

 

あ、わかった。ここだと人目が多いから、きっと路地に入ったA子ちゃんが油断したところを狙うんだ。最初からA子ちゃん狙いなんだ。

 

そして、A子ちゃんが無事に跨線橋を渡り終えた瞬間。

 

「今だっ!」

 

ぼくはまず目の前で歩いているおじいちゃんの前に出た。

 

「おじいちゃん! ちょっと来て! おまわりさんが呼んでる!」

 

「はぁ?」

 

「お、おい」と慌てるおじいちゃんの手を引っ張り、続いて騒いでいるおじさんの前にも出た。

 

「おじさん! ちょっと来て! おまわりさんが呼んでる!」

 

「な、なんだね君はっ!?」

 

周囲の人たちのざわめきを背に、ぼくは2人の手を引っ張って跨線橋の階段を駆け下り、交番のスライドドアを勢いよく開けた。

 

「おまわりさーん! この人たちね、路出教っていってね、今からぼくの友達にち〇ち〇を見せようとしてたんだよ!」

 

座っていたおまわりさんと、ぼくが連行してきた2人は、いきなりのことにあ然としていた。

 

「えっ……この人たちが?」

 

と、おまわりさんが2人に目を向けて、すぐに連行した2人が何か言いかけたから、ぼくが先にこう言ってやった。

 

「だ・か・ら! ち〇ち〇出す人たちなの!」

 

「君はその場を見たの?」

 

「いや、見てないけど」

 

「うーん…君ね、この人たち、そんなことしないと思うんだけどなぁ」

 

「えっなんで!? だって、路出教っていう宗教をやってるっぽいじゃん!」

 

「はぁ…。いや、だってねこの人たちは……」

 

10分後、ぼくとやってきたお母さんと一緒に、お寺へ帰る途中だったお坊さんと、選挙演説中だった国会議員さんへいっぱいごめんなさいをした。

 

Tacomi式世界⑮「最悪の味付け」

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幼稚園時代、「みんな、お肉とお魚ならどっちが好きかしらー?」という先生の問いかけに対し大多数が「にくー!」と叫ぶ中、ぼくは体育座りをして手を前に組んだまま沈黙を貫いた。

 

「あら、たこちゃんはどうかしら?」

 

と先生に優しく詰められると、ぼくはこう答えた。

 

「お肉さんやお魚さんもすきです、でも野菜さんの方がもっと好きです」

 

と、某引っ越しセンターのCMみたいなセリフをアレンジしていた気がする。

 

よく野菜嫌いをアピールする園児のお弁当の中にニンジンとかキュウリが入っていたとしても、必ず隅にマヨネーズが付いていた。

 

ぼくはガッカリした。

 

「何も付けないで食べるから野菜本来の味が味わえるんだろ」

 

とは言ってないが、そう思っていた記憶がある。

 

ぼくは大好きだった『ピーター・ラビット』や『ぐりとぐら』に出てくる動物たちが、実にうまそうに野菜をムシャムシャ食べている絵を見て影響を受け、野菜は生派だった。

 

動物たちはマヨネーズなんか付けて食べてなかったし。

 

事実、ぼくはその「何も付けないで生の野菜を食べる」という野菜愛が高じて親を困らせたことがある。

 

ある日、幼稚園の帰り道。

 

いつものように母が漕ぐ自転車の後ろに乗せられて帰っていた時。

 

ちょうど通りかかった公園の草むらが、めちゃくちゃうまそうに見えてしまった。

 

「ねぇ、タイム」

 

ぼくは母の背中を叩いた。

 

「あのすべり台をどうしてもやりたい」

 

という巧妙な嘘をつき、自転車から降りてすべり台付近に生えている草むらの元へ駆け寄った。

 

何かを食べる時は必ずいただきますをしなさいと言われていたので、草むらにしゃがんだぼくは手を合わせて「いただきます」をしてから草を一本千切って先端を噛み取って咀嚼してみた。

 

……

 

苦っ。

 

いや、でもこれがいいんだ。

 

この苦み、やはりこれが野菜本来の……

 

おえぇっ!!!

 

ぼくは思わず草を吐き出して涙目になった。

 

ぐっ…なっ、なぜだ…?

 

なぜ、後からおしっこの味がするのだ?

 

と思っていると、後ろから母が大慌てで駆け寄ってくる足音が聞こえ、ぼくを抱えて草むらから離し、「何してんの!? 全部吐きなさい!」と背中をバシバシ叩かれた。

 

落ち着いてから、ぼくは聞いた。

 

「ねぇ、この草、おしっこの味がしたんだけど」

 

「そりゃそうでしょ! 散歩に来たワンちゃんたちがここでおしっことかうんちするんだから」

 

なん…だと…?

 

この事件以来、野菜トラウマになったぼく。

 

お弁当箱の隅には、しばらくマヨネーズが付くことになった。

 

Tacomi式世界⑭「おにくおにくおにくゲーム」

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※食べる肉に関連した内容ではありません。


 小学6年生の頃ぼくは10リットルの水に墨汁を一滴垂らしたくらいの存在感で孤立するのも嫌だしとりあえずガキ大将にくっついていたのだがそのガキ大将というのはN君といい少年野球をやっていたからなのか「これが気合い」という古典的なことを言ってバリカンで頭だけではなく眉毛もハゲにしたという変さ値は高いが偏差値は低いそのN君が考案したおにくおにくおにくゲームが流行って今にして思えば小6なのに初めてAVを見た小1が命名しそうな名前なのだがもしかしてワンチャンみんな知っているだろうか?

 

いや100歩譲ってこんな毒にも薬にもならないクソエッセイをいくら愛想のいい可憐な女性が読んでいたとしても100%そんなローカルゲーム知らねぇよターコと心の中で毒づかれそうだから結論から先に言うと要は肉体と肉体のぶつかりあいではなくただの鬼ごっこであって授業終了のチャイムが鳴り先生が去った休み時間になると「はいおにくやる人」と教卓の上に登った密かにカリスマハゲと呼ばれたN君の神聖なる呼びかけのもと男子女子問わずみんな教卓のまわりにうじゃうじゃと来て「おっにっく、おっにっく、おっにっく」と合いの手を入れて手拍子しながら集合するけどどこの部族の雨乞いなのか。

 

ルール説明

・じゃんけんで負けた人が鬼。

・鬼は相手の二の腕のおにくをつまんで「おにくおにくおにく」と言いながら3回もむ。3回もまれたら鬼交代。

・チャイムが鳴ったらゲーム終了。

・最後に鬼になっていた人は次の授業中に何か面白いことをしなくてはならない。

 

以上がルールだがそもそもおにくおにくおにくゲームの由来はN君が自分でも他人でも二の腕のぷるぷるしたおにくをつまんだ時の感触が好きだったかららしいがじゃあ休み時間は丸々おまえの二の腕をセルフでおにくおにくおにくしてればよくねって一瞬思うんだけどぼく込みでみんなが参加している理由は気になる女子もしくは男子の二の腕のおにくをおにくおにくおにく出来るチャンスがあるというメリットがあったからやるわけでもう神様仏様N様といった感じを装っていた。

 

ぼくは存在感がなかったうえ合併症として目立つことが苦手だったので「せーの最初はグー」と教卓のまわりをぐるっと囲んでじゃんけんをやっている時も常に後方からじゃんけんに参加していたしそもそも後方にいることすら認識されていなかったというおまえは入ってくんな的な感じにも満たない悲惨な状況だったのは間違いなくてじゃんけんで負けてもいつもスルーされていた。

 

鬼が決まったら鬼が10数える間にみんなほうぼうへ散っていくのたが男子が鬼の場合は女子を追いかける傾向にあり女子が鬼なら男子を追いかける傾向にあって要は思春期の芽生えというやつだと思うがぼくは好きな女子ならおにくおにくおにくしてもらいたいがためにというか認識してほしいがために当然わざと逃げるスピードを緩めるし男子なら全力で逃げて男子トイレの個室に入って鍵をかけたり先生の車の下に潜り込んで隠れたりするわけだがだいたいいつもいつまで経っても鬼はぼくのところにやって来ない。

 

おまえはもちろん参加してないよね参加するようなキャラじゃないよね的な視線で見られる毎日なのでぼくはある日勇気を出して「ぼく参加してるよ」と鬼だった頭の良い女子に言ったら「は、つまんな」と言われてしまったのだがきっと参加を酸化にでも勘違いして「ほら今ぼく酸化してるよ」という現在進行形で意味不明なギャグだと思い込んでいるんだと思い込むことにしておいた。

 

どうせぼくなんか誰にも相手にされないんだなと思っていたけどとりあえずシャツの裾を出してなおかつツタンカーメンの気持ちになってミイラみたいに手を前で組んで目を閉じて掃除用具入れのドアを閉めて隠れていた時にいきなりドアが開いて「やってるよね」と女子に確認の声をかけられ「やってるよ」と言うと「おにくおにくおにく」と詠唱されつつ二の腕を3回もまれた。

 

ぬああああああああああああああああああああああああああああああああああああああと昇天したことは言うまでもなかったがチャイムが鳴ってしまったのであっどうしようどうしようどうしよう面白いことやんないといけないんだ何すればいいんだよくそという気持ちにすぐ変わってしまって萎え始めていた。

 

てかそもそもなんでぼくなんかにおにくおにくおにくしてくれたんだろうと思いながら席に着くと防災訓練の時に「みなさんが集まるまで15分かかりました」とか月曜日の朝礼の時に「背筋が伸びてない背筋を伸ばしましょう」の名言でおなじみの笑わないクソ真面目な校長がやってきたので何だろう何だろう何か悪いことでも誰かやらかしたのかなと勘繰っていたけど「はいでは始めます」なんて厳粛に言って普通に授業始めてるし何だこれ。

 

「K先生お父さんが入院したらしくて前の時間に次の時間は校長が代わりに授業やってくれるからねって言ってたよ」と左隣の女子が教えてくれ「おまえさっきの時間いびきかいて寝てたからなほらこの雰囲気の中面白いことやってくれよ」と右隣のカリスマハゲプロデューサーN君が指で突っついてきて触んなと思ったけどぼくは寝ていた自分を呪った。

 

いつもなら最後に鬼になった誰かしらが次の担任のK先生の授業中に例えば男子なら「先生ちょっとおならします」とか言って手の甲に口を当ててブブブとかいう効果音を出しておならのまねをして「ちょっとやだー」とか笑い飛ばしてくれるし女子なら「ポケモンピカチュウの鳴き声やりますピッカー」とか言って「えーかわいいー」とかいう平和的なコメントもあったりするわけだがいやいや目の前にいるの今まで一回も笑ったことなさそうな校長だよ校長その上ぼくはそんな一芸はやったことないし何をやればいいのかわからないのでさあ困った。

 

みんなから早く何か面白いことやれよやれよとあおられているような視線を感じてああもうわかりましたやりますよとヤケクソになってぼくは校長が板書してる背後から忍び寄って二の腕をおにくおにくおにくしてみたらあら意外と柔らかいみんな爆笑校長爆怒ぼく爆死だったけど普段面白いことをやらなそうな奴が普段そういうことされなそうな人に何か笑いを仕掛けるっていうこの差で笑いを取れたことが気持ち良すぎたのでなんかもう全て許すN君ちゅーしよ。

 

Tacomi式世界⑬「ポケモンごっこ」

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ぼくが小学校4年生の頃、『ポケモン赤・緑』が発売された。友達の間で「おまえ最初の3匹の中から何選んだの」が流行語になっていたので、すぐ母に「買って買って」攻撃をしかけた結果ダイクマで買ってもらえた。進研ゼミのチャレンジをチャレンジし続けるという口約束をした上で。

 

そりゃあもう、放課後になったらチャリをこいで暗黙の了解の集会所である公民館へ行き、囲碁や将棋をパチパチ打ってるおじいちゃんたちの間でたむろってピコピコしている友達を見つけては、通信ケーブルを使ってポケモンやろうぜやろうぜと対戦したり交換したりしまくっていた。ちなみにぼくのパーティはフーディン6体、かっこいいから。

 

学校は勉強するところだからという目をギラギラさせた先生の圧力でゲームボーイ持参登校は禁止だったが、目をキラキラさせた友達は学校でもポケモンをどうしてもやりたかったらしい。いわゆるだんだんバーチャルとリアルのボーダーラインが分からなくなったのか、そのうちぼくのいたクラスで「ポケモンごっこ」が流行りだした。

 

子どもは遊びを作る天才。中二病ならぬ小二病。おれがおれがの意思が強すぎる男子たちはポケモントレーナーという存在を無視して、休み時間になると自分たちがポケモンになって教室のあちこちで各々が思うファイティングポーズを取り始めた。

 

ポケモンの技は中には現実でもありそうだし出来そうなものもあるから人間でもお手軽に応用が効いてしまう。「おうふくビンタ」とか「なきごえ」とか「かみつく」とか。男子たちは「でゅきしでゅきし」とか様々な効果音を発音しながら技を使ってバトルし始めた。

 

「ひっかく、でゅきし」
「いて。なんの、きりさく、でゅきし」
「いて。てか、おまえの顔的にきりさくは覚えないだろ」
「そんなの知るか、かみなり、ゴロゴロ、ピカ、ドーン」
「いってぇ、じゃあおれはかいこうせん、ピピピピピ」
「ならおれもはかいこうせん、ピピピピピ」

 

どのバトルも最終的にはどっちが強い「はかいこうせん」を撃てるのかというマウントを取るまでバトルが続く。男子なんてそんなもの。そもそもはかいこうせんという技名が小二病の皆さんにしてみたらかっこいいから困る。てかそんなところに男のプライドを注ぐな。案の定アホなことにお互いに人差し指を勢いよく突き出して体に命中させるものだから、お互いに突き指になって保健室送り。まあ保健室送りになるまでやるのはどうかしていると思うが、この頃の休み時間の教室は無法地帯。

 

「いやなおと」とか言って黒板を爪でギーッてやるやつもいれば「でんきショック」とか言ってコンセントのプラグで攻撃してくるやつもいれば「どくガス」とか言っておならするやつもいれば「へびにらみ」とか言って顔を指でいじくり強欲な壺みたいな顔になって笑えと迫ってくるやつもいた。その発想だけは笑ってやる。

 

ぼくはバーチャルの世界にはついていけてもリアルの世界にはついていけなかった。そもそも現実世界では平和主義者だったので野蛮なことはできない。強いて言えば流行り始めの方にオーキド博士役になってくれと頼まれたので「ここに3匹のポケモンがおるじゃろ?」というセリフでしか参加していない上、結局男子たちは自らポケモンになっているのでもういいやと思って一人で妄想を楽しんでいた。

 

「からみつく」とか「したでなめる」が使えたならどんなにいいことだろうと考えていた。どのような妄想かは読者の想像に一任するが、だいたいぼくは「おまえ、エロザルポケモン」と分類分けを勝手にされてポケモン図鑑に見立てたノートに掲載されていたらしい。友達が落書きしていた。見せてもらうとばかうけがベースになっており、異様に長細い顔に殺人を犯しそうな細い目、かもめになった眉毛、うへうへ言ってそうなだらしない口、そしてサルのようなでかい耳をつけ、鼻毛が飛び出た鼻の下を伸ばし切っていた。

 

担任の先生はおばさんで実に児童の扱いがうまかった。チャイムが鳴ると同時に教室に入ってきて一言でポケモンごっこに終止符を打ってくれた。

 

「やめないと、あくまのキッスをするよ」

 

あなたがこのポケモンたちのトレーナーだ。

 

Tacomi式世界⑫「勘違い検定1級」

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 自慢じゃないが、ぼくは言葉の勘違いが激しい。自称・「勘違い検定1級」を所持している。

 

あれは中学1年生の頃。

 

英語の授業で、『桃太郎』を英語で読むという時間があった。

 

まずは本文を黙読しなさい、と先生に言われたが、冒頭の「Once upon a time」という出だしからよく分からない。なんだこれ。

 

ページの下に注釈があったのにも気付かず、いつまで経っても一向に読み進められずにイライラしていた。

 

まぁ訳すと「昔々」という意味だが、ここでぼくは勘違い力を発揮する。

 

そもそも「upon」を、「ウッポン」という、スッポンの一種だと考えていた。スッポンなら昔に出てきてもおかしくないんじゃね、という思考回路がそうさせた。

 

つまり。

 

「音痴なウッポンのタイム。おじいさんとおばあさんがいました」と、英文を黙読したぼくは頭の中で勝手にそう訳していた。

 

待て。これは一体どういう状況なんだ。

 

「ウッポンターイム! はーい、ここでタイムね。今から、音痴だけどこのおれ、ウッポンの視点でおじいさんとおばあさん、そしてこの桃太郎全体を語っていくよーん!」と語られているような気がする。勘違いだろうか。

 

てか何がウッポンタイムだよ、いきなりタイムかけんじゃねぇよ、ついていけねーよ、さっさと洗濯と柴刈りに行ってくれよと、ぼくは内心あきれていた←

 

このように、ぼくは今でこそ奇跡的にも英検2級を持っているが、当時はお話にならないレベルだった。

 

そんな、「英検」とか「漢検」とかは聞き馴染みのある言葉で、中学生の頃は何の略語かは知っていたが、一つだけ猛烈に勘違いしていた検定があった。

 

ある日、友達同士で「おまえ、すうけん受けるの?」「いやー難しそうじゃね」という会話が耳に入ってきた。

 

ちょっと待て。すうけんとは何事だ。

 

まぁ「数検」のことなのだが、思春期まっさかりの中学生というのは、妄想力が豊かである。

 

「〜けん」という以上、検定の種類だと思ったが、勘違い検定1級のぼくは「吸う検」だと勘違いしてしまった。

 

そうか! つまり、おっぱいが吸える検定か。

 

というか、正直吸いたい。よろしくお願いちまーちゅ。

 

「吸う検」という以上、やはり乳房を吸うのは分かるけど、一体どんな吸う技術が求められるのか。

 

友達に聞いてみた。

 

「吸う検ってどんな感じなの?」

 

「まぁ受ける級によるかなー。小学校で教わるレベルが詰まってるやつは6級かなー。まぁ公式覚えとけばいけると思うけど」

 

「えっ! 小学校でそんな公式教わったっけ!?」

 

「はぁ? みんなやってたじゃん」

 

「ええー! マジか! おれやった覚えないぞ!(おっぱいを吸う公式なんて)」

 

「いやあるだろ! あ、あと実際の検定では定規とか分度器とかコンパスも使うから」

 

「マ、マジで!? 痛くね?(コンパスのとがった部分で乳房に穴開けて飲むことを想像している)」

 

「はぁ? そんなの気を付けて使えばいいだろ」

 

「ま、まあね。でさ、でさ、相手ってどういう人なの? やっぱりグラビアアイドル?」

 

「はぁ? 何言ってんだ。そりゃ自分だろ。己との戦いだよ」

 

「えーっ! 自分のおっぱい吸うの!? むずくね?」

 

誤解はこの後に解けて夢は崩壊するのだが、こんな調子ですぐ勘違いしていた。

 

大学生になってからも、ひどい勘違いを発揮したことがあった。

 

「あたし今度、仏検受けるんだ〜♪ ねぇ一緒に受けない?」とLINEしてきた女友達がいた。

 

「ふつけん? どんな漢字書くの?」(もうぼくは勘違いしないぞ)

 

「ホトケって漢字に、検定の検だお!」

 

まぁフランス語検定のことなのに、ぼくは「出家して仏の道へ入る試験」と勘違いした。

 

「いやいや! 受けないよ! てか、そんな気軽に尼さんになる感じなの? 全部剃る覚悟はあるの? おれは反対だなぁ~」とLINEを返すと怒られてしまった。

 

そうそう、「最っ低…」と軽蔑された勘違いは「簿記検定(ぼきけん)」だが、この後を詳しく書いたら、もう犯罪な感じがするので、あとは読者の想像にお任せしたい。…想像しなくてもいいけど。