文豪たこのくっついて~スミはいて~

おもしろさ第一、役に立つこと第ニ

Tacomi式世界②「お坊さんと間接キス」

f:id:bungoutaco:20200529100003j:plain



老人ホームで働いていると、いろんな人に出会う。


一番強烈だったのは、元お寺の住職だったという丸坊主つぶらな瞳を持つおじいちゃんだ。


ぼくは、そのおじいちゃんと間接キスをしたことがある。同じコップを使ったとか、そういうかわいいレベルではない。


職業柄だと思うが、そのおじいちゃんは何かにつけて「うにょーうにょー」とお経を読んでいた。上も下も入れ歯をしているが、滑舌は良い方とは言えず、お経ならなおさらちょっと何を言っているのかよく分からない。


それでも、例えば、寝ている時も合掌して、「にょっ…にょっ…にょっ」といびきを立ててお経を読んでいるし、便座に座っている時も合掌して、「うにょーーううううんっ!」と踏ん張りながらお経を読んでいるし、お風呂に入って頭をシャワーで流している時も合掌して、「うにょうおおおおおお!!」と、これはもうお経を読むというより、もはや滝行みたいな感じになっている。


ある日、ぼくはおじいちゃんと交流を深めようと、床にひざまずき、おじいちゃんの顔を見上げる格好で、「なんみょーほーれーん」と合掌してオーソドックスなお経を読むまねをしてみせた。

ところが、おじいちゃんが「びあうほ!(ちがうよ)」と言って、手を横に振った。どうやらこのお経の読み方に問題があったらしい。そもそも抑揚の付け方とか知らないのだが。

そして、本家を見せたるわ! という感じで、おじいちゃんは勢いよく合掌し、「うにょんにょんにょーにょん」とお経を読んでいたが、その最中おじいちゃんの総入れ歯が外れ、おじいちゃんを見上げて一緒にお経を読んでいたぼくの口の中に降ってきた。

あはは。ぼく、一足お先に南無阿弥陀仏