文豪たこのくっついて~スミはいて~

おもしろさ第一、役に立つこと第ニ

Tacomi式世界⑭「おにくおにくおにくゲーム」

f:id:bungoutaco:20200704121957j:plain

 

※食べる肉に関連した内容ではありません。


 小学6年生の頃ぼくは10リットルの水に墨汁を一滴垂らしたくらいの存在感で孤立するのも嫌だしとりあえずガキ大将にくっついていたのだがそのガキ大将というのはN君といい少年野球をやっていたからなのか「これが気合い」という古典的なことを言ってバリカンで頭だけではなく眉毛もハゲにしたという変さ値は高いが偏差値は低いそのN君が考案したおにくおにくおにくゲームが流行って今にして思えば小6なのに初めてAVを見た小1が命名しそうな名前なのだがもしかしてワンチャンみんな知っているだろうか?

 

いや100歩譲ってこんな毒にも薬にもならないクソエッセイをいくら愛想のいい可憐な女性が読んでいたとしても100%そんなローカルゲーム知らねぇよターコと心の中で毒づかれそうだから結論から先に言うと要は肉体と肉体のぶつかりあいではなくただの鬼ごっこであって授業終了のチャイムが鳴り先生が去った休み時間になると「はいおにくやる人」と教卓の上に登った密かにカリスマハゲと呼ばれたN君の神聖なる呼びかけのもと男子女子問わずみんな教卓のまわりにうじゃうじゃと来て「おっにっく、おっにっく、おっにっく」と合いの手を入れて手拍子しながら集合するけどどこの部族の雨乞いなのか。

 

ルール説明

・じゃんけんで負けた人が鬼。

・鬼は相手の二の腕のおにくをつまんで「おにくおにくおにく」と言いながら3回もむ。3回もまれたら鬼交代。

・チャイムが鳴ったらゲーム終了。

・最後に鬼になっていた人は次の授業中に何か面白いことをしなくてはならない。

 

以上がルールだがそもそもおにくおにくおにくゲームの由来はN君が自分でも他人でも二の腕のぷるぷるしたおにくをつまんだ時の感触が好きだったかららしいがじゃあ休み時間は丸々おまえの二の腕をセルフでおにくおにくおにくしてればよくねって一瞬思うんだけどぼく込みでみんなが参加している理由は気になる女子もしくは男子の二の腕のおにくをおにくおにくおにく出来るチャンスがあるというメリットがあったからやるわけでもう神様仏様N様といった感じを装っていた。

 

ぼくは存在感がなかったうえ合併症として目立つことが苦手だったので「せーの最初はグー」と教卓のまわりをぐるっと囲んでじゃんけんをやっている時も常に後方からじゃんけんに参加していたしそもそも後方にいることすら認識されていなかったというおまえは入ってくんな的な感じにも満たない悲惨な状況だったのは間違いなくてじゃんけんで負けてもいつもスルーされていた。

 

鬼が決まったら鬼が10数える間にみんなほうぼうへ散っていくのたが男子が鬼の場合は女子を追いかける傾向にあり女子が鬼なら男子を追いかける傾向にあって要は思春期の芽生えというやつだと思うがぼくは好きな女子ならおにくおにくおにくしてもらいたいがためにというか認識してほしいがために当然わざと逃げるスピードを緩めるし男子なら全力で逃げて男子トイレの個室に入って鍵をかけたり先生の車の下に潜り込んで隠れたりするわけだがだいたいいつもいつまで経っても鬼はぼくのところにやって来ない。

 

おまえはもちろん参加してないよね参加するようなキャラじゃないよね的な視線で見られる毎日なのでぼくはある日勇気を出して「ぼく参加してるよ」と鬼だった頭の良い女子に言ったら「は、つまんな」と言われてしまったのだがきっと参加を酸化にでも勘違いして「ほら今ぼく酸化してるよ」という現在進行形で意味不明なギャグだと思い込んでいるんだと思い込むことにしておいた。

 

どうせぼくなんか誰にも相手にされないんだなと思っていたけどとりあえずシャツの裾を出してなおかつツタンカーメンの気持ちになってミイラみたいに手を前で組んで目を閉じて掃除用具入れのドアを閉めて隠れていた時にいきなりドアが開いて「やってるよね」と女子に確認の声をかけられ「やってるよ」と言うと「おにくおにくおにく」と詠唱されつつ二の腕を3回もまれた。

 

ぬああああああああああああああああああああああああああああああああああああああと昇天したことは言うまでもなかったがチャイムが鳴ってしまったのであっどうしようどうしようどうしよう面白いことやんないといけないんだ何すればいいんだよくそという気持ちにすぐ変わってしまって萎え始めていた。

 

てかそもそもなんでぼくなんかにおにくおにくおにくしてくれたんだろうと思いながら席に着くと防災訓練の時に「みなさんが集まるまで15分かかりました」とか月曜日の朝礼の時に「背筋が伸びてない背筋を伸ばしましょう」の名言でおなじみの笑わないクソ真面目な校長がやってきたので何だろう何だろう何か悪いことでも誰かやらかしたのかなと勘繰っていたけど「はいでは始めます」なんて厳粛に言って普通に授業始めてるし何だこれ。

 

「K先生お父さんが入院したらしくて前の時間に次の時間は校長が代わりに授業やってくれるからねって言ってたよ」と左隣の女子が教えてくれ「おまえさっきの時間いびきかいて寝てたからなほらこの雰囲気の中面白いことやってくれよ」と右隣のカリスマハゲプロデューサーN君が指で突っついてきて触んなと思ったけどぼくは寝ていた自分を呪った。

 

いつもなら最後に鬼になった誰かしらが次の担任のK先生の授業中に例えば男子なら「先生ちょっとおならします」とか言って手の甲に口を当ててブブブとかいう効果音を出しておならのまねをして「ちょっとやだー」とか笑い飛ばしてくれるし女子なら「ポケモンピカチュウの鳴き声やりますピッカー」とか言って「えーかわいいー」とかいう平和的なコメントもあったりするわけだがいやいや目の前にいるの今まで一回も笑ったことなさそうな校長だよ校長その上ぼくはそんな一芸はやったことないし何をやればいいのかわからないのでさあ困った。

 

みんなから早く何か面白いことやれよやれよとあおられているような視線を感じてああもうわかりましたやりますよとヤケクソになってぼくは校長が板書してる背後から忍び寄って二の腕をおにくおにくおにくしてみたらあら意外と柔らかいみんな爆笑校長爆怒ぼく爆死だったけど普段面白いことをやらなそうな奴が普段そういうことされなそうな人に何か笑いを仕掛けるっていうこの差で笑いを取れたことが気持ち良すぎたのでなんかもう全て許すN君ちゅーしよ。