文豪たこのくっついて~スミはいて~

おもしろさ第一、役に立つこと第ニ

Tacomi式世界⑰「夢十嫌」

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これは、「こんな夢を見た」で始まる夏目漱石の『夢十夜』をもじった作品です。

 

あれは、鼻をほじって蓄えたものを収穫して食す癖があった、しょうもない小学校1年生の頃。

 

 

 

ぼくは2歳年下の妹と一緒に『セーラームーン』をよく観ていた。

 

中でも、愛野美奈子(セーラービーナス)が初めて登場した時、あまりの可愛さとセクシーさに心臓をビーナス・ラブ・ミー・チェーンで射抜かれてしまった。

 

セーラービーナスが登場するたびに、ぼくは鼻の工事を一時中断し、ほっぺたと耳に血が巡って赤くなるのを感じ、たまに鼻血も出しつつも画面を凝視してうへうへしていた。

 

ただ、ぼくは一つだけ不満があった。

 

悪いやつらとの戦闘シーンのたびに、確かに激しいアクションをしているのにも関わらず、どうしてもミニスカートの中にあるパンツが見えそうで見えないあの感じがもどかしかったのだ。

 

くそっ! 一体なぜなんだ!?

 

鼻血を抑えるためにティッシュを鼻に詰め込んだぼくは立ち上がって、握りこぶしをつくった。

 

疑問はやがて確信に変わらず、探求へと変わった。

 

愛野美奈子に会って、パンツを見たい…」

 

仮に、今こんなことを警察官の前で口にしたら、犯罪者の誕生を宣告したと共に、すぐに一般人としての一生を終えるだろう。

 

この年齢だからこそ許される。

 

小1にして、テロリストならぬエロリストである。

 

今はむしろ「てか男なんてみんなそうじゃね?」と、ヒラキナオリストとして筆を取っている。

 

ぼくは、ある作戦を思いついていたのだ。

 

そしてある夜、ついにぼくは作戦を決行した。

 

妹が指をしゃぶりながらおねんねした後に、妹の机に置いてあったセーラームーンのぬりえの本をコッソリ盗み、セーラービーナスのページを開いて自分の枕の下に入れ、頭から布団をかぶった。

 

ぼくは布団の中で、手を組んで揺らしながらお祈りした。

 

「神様、仏様、セーラービーナスのパンツが見られますように…いっしょーのお願い!! 神様、仏様、セーラービーナスのパンツが見られますように…いっしょーのお願い!!」

 

神も仏もそんな犯罪行為を許すはずがないし、逆に裁く側だと思うが、この時のぼくはこういうおまじないをすれば夢が叶うと『ドラえもん』でのび太が言っていたことを信じていた。

 

そして、唱えるうちに睡魔が襲ってきた。

 

こんな夢を見た。

 

ぼくは学校の自分のクラスにいた。

 

制服姿の愛野美奈子がぼくに近寄り、「ねぇ一緒に帰らないっ?」と言ってきた。

 

こんなの断るわけがない。夢だから、このありえない状況も不審に思わなかった。願ったり叶ったりだ。

 

「いいよ」と言って、並んで歩いていた帰り道、突然地面の下から悪そうなモグラ怪人が現れた。

 

「殺してやるー」と言って爪を光らせている。

 

ぼくは足が震えて動けなかったけど、すぐに愛野美奈子が「ヴィーナス・パワー・メイクアップ!」と言って、セーラービーナスに変身した。

 

あ、パンツ見れる。

 

「私が相手よ! ヴィーナス・ラブ・ミー・チェーン!」

 

「うがああ!」

 

怪人は必殺技をくらって倒れた。

 

「うがああ!」

 

ぼくはパンチラをくらって倒れた。

 

パンツ、白かったな…。

 

眼福。

 

パンツは白かったけど、倒れたぼくは赤かった。

 

マンガのように鼻血ブーしてしまい、服が血で汚れていた。

 

仰向けのぼくにセーラービーナスが駆け寄り、肩を揺すってきた。

 

「だっ、大丈夫っ!? 攻撃されたのっ?」

 

「うん。ある意味ね」

 

「大変…! すぐ救急車呼ばなきゃ!」

 

ああ、いい匂い。

 

ああ、こんなに柔らかそうな太ももが近くにある。

 

ぼくは我慢ならなかった。

 

これはもういくしかない。

 

ぼくは思い切って、セーラービーナスの太ももに顔を擦り寄せようとした。

 

その時。

 

……

 

……

 

あれ…?

 

まぶたの重さを認識した。

 

窓の外は明るみ始めている。

 

寝ぼけまなこで、柔らかい太ももに顔をもう一度摺り寄せた。

 

しかし。

 

徐々に目覚めると、何かが違う。

 

目の前には、毛むくじゃらの太ももがそびえていた。

 

どうやら、隣でゴアゴアといびきをかいて寝ていた父親の太ももに顔を擦り付けていたらしい。

 

嫌ぁぁぁ! ぼくのビーナスを返せ。