Tacomi式世界⑯「ろしゅつきょうとの対決」
ぼくは小学校3年生の頃、「ろしゅつきょう」という言葉を初めて聞いた。
「昨日、〇〇駅の近くでろしゅつきょうの男が出ました。他の学校の女子に向けて、ズボンとパンツを下ろして見せて逃げていったそうです。みんな、登下校の時は注意してね」
先生はそう注意を呼びかけた。
だけど、ぼくは「ろしゅつきょう」とはどんな漢字を当てるのか知らなかったので、想像を膨らませた。
さて、以前ブログにも書いたが、ぼくは『勘違い検定1級』の所持者である。読者の皆様は嫌な予感がよぎったことだと思う。
ぼくは今まで習った漢字を思い出してノートに書いて「ろしゅつきょう」に当てはめたら、「路出教」になった。
こっ、これは…!!
「路上に出て、ち〇ち〇を見せる宗教活動をしている人」に違いない!
読者の皆様、安心して下さい。意味的に間違いではないですよね。正式には「露出狂」ですが。
よーし!
路出教の出た〇〇駅付近はぼくの通学路ではなかったけど、ぼくは気合いが入っていた。
「路出教をやっつけて、好きな女子のA子ちゃんを彼女にする良いチャーンス!」
だと思った。A子ちゃんは駅の方が通学路なはずだ。
要は、ボディガードである。
かと言って、A子ちゃんと一緒に帰っているところを他の男子たちに見られたら、「ヘイヘーイ! おまえら付き合ってんのかよー!」とイジられそうなので、A子ちゃんを見守るという形で、尾行を決心した。
要は、ストーカーである。
そして、放課後。
電信柱や車の陰に隠れつつ尾行して、ついに駅までやってきた。
家と学校を往復するだけの毎日を送るぼくにしたら、新鮮な光景だ。
どうやら、A子ちゃんは線路を挟んだ向こう側に住んでいるらしい。跨線橋の階段を昇り始めていた。
その時。
むむっ! あれはっ!?
階段を昇るA子ちゃんの後を、不審な格好をしたおじいちゃんが後をつけているように見えた。
でっかい麦わら帽子のようなものを深くかぶって、杖をついている。
もしかして…!!
と思ったのも束の間、今度は跨線橋を昇りきったところにある改札付近で、汗だくになりながらやたらと身振り手振りをして騒いでいるおじさんが見えた。
おじさんの周りには人だかりができていて、みんな真面目そうな顔をして聞いている。
もしかして…!!
なんか2人とも宗教っぽいぞ!
路出教だ!!
A子ちゃんと他のみんなが、あいつらにち〇ち〇とかケツを見せられる前に、ぼくが何とかしなくちゃ!
幸運にも、ぼくは跨線橋を渡った向こう側に交番があるのが見えた。
しめた!
使命感を燃やす材料がそろったぼくは、慎重に路出教2人の動向を伺いながら歩く。
ち〇ち〇を出そうものなら、すぐにぼくが行って玉ごと蹴ってほひーほひー言わせてやる。
だが今のところ、ち〇ち〇を見せる様子はない。
あ、わかった。ここだと人目が多いから、きっと路地に入ったA子ちゃんが油断したところを狙うんだ。最初からA子ちゃん狙いなんだ。
そして、A子ちゃんが無事に跨線橋を渡り終えた瞬間。
「今だっ!」
ぼくはまず目の前で歩いているおじいちゃんの前に出た。
「おじいちゃん! ちょっと来て! おまわりさんが呼んでる!」
「はぁ?」
「お、おい」と慌てるおじいちゃんの手を引っ張り、続いて騒いでいるおじさんの前にも出た。
「おじさん! ちょっと来て! おまわりさんが呼んでる!」
「な、なんだね君はっ!?」
周囲の人たちのざわめきを背に、ぼくは2人の手を引っ張って跨線橋の階段を駆け下り、交番のスライドドアを勢いよく開けた。
「おまわりさーん! この人たちね、路出教っていってね、今からぼくの友達にち〇ち〇を見せようとしてたんだよ!」
座っていたおまわりさんと、ぼくが連行してきた2人は、いきなりのことにあ然としていた。
「えっ……この人たちが?」
と、おまわりさんが2人に目を向けて、すぐに連行した2人が何か言いかけたから、ぼくが先にこう言ってやった。
「だ・か・ら! ち〇ち〇出す人たちなの!」
「君はその場を見たの?」
「いや、見てないけど」
「うーん…君ね、この人たち、そんなことしないと思うんだけどなぁ」
「えっなんで!? だって、路出教っていう宗教をやってるっぽいじゃん!」
「はぁ…。いや、だってねこの人たちは……」
10分後、ぼくとやってきたお母さんと一緒に、お寺へ帰る途中だったお坊さんと、選挙演説中だった国会議員さんへいっぱいごめんなさいをした。