Tacomi式世界⑮「最悪の味付け」
幼稚園時代、「みんな、お肉とお魚ならどっちが好きかしらー?」という先生の問いかけに対し大多数が「にくー!」と叫ぶ中、ぼくは体育座りをして手を前に組んだまま沈黙を貫いた。
「あら、たこちゃんはどうかしら?」
と先生に優しく詰められると、ぼくはこう答えた。
「お肉さんやお魚さんもすきです、でも野菜さんの方がもっと好きです」
と、某引っ越しセンターのCMみたいなセリフをアレンジしていた気がする。
よく野菜嫌いをアピールする園児のお弁当の中にニンジンとかキュウリが入っていたとしても、必ず隅にマヨネーズが付いていた。
ぼくはガッカリした。
「何も付けないで食べるから野菜本来の味が味わえるんだろ」
とは言ってないが、そう思っていた記憶がある。
ぼくは大好きだった『ピーター・ラビット』や『ぐりとぐら』に出てくる動物たちが、実にうまそうに野菜をムシャムシャ食べている絵を見て影響を受け、野菜は生派だった。
動物たちはマヨネーズなんか付けて食べてなかったし。
事実、ぼくはその「何も付けないで生の野菜を食べる」という野菜愛が高じて親を困らせたことがある。
ある日、幼稚園の帰り道。
いつものように母が漕ぐ自転車の後ろに乗せられて帰っていた時。
ちょうど通りかかった公園の草むらが、めちゃくちゃうまそうに見えてしまった。
「ねぇ、タイム」
ぼくは母の背中を叩いた。
「あのすべり台をどうしてもやりたい」
という巧妙な嘘をつき、自転車から降りてすべり台付近に生えている草むらの元へ駆け寄った。
何かを食べる時は必ずいただきますをしなさいと言われていたので、草むらにしゃがんだぼくは手を合わせて「いただきます」をしてから草を一本千切って先端を噛み取って咀嚼してみた。
……
苦っ。
いや、でもこれがいいんだ。
この苦み、やはりこれが野菜本来の……
おえぇっ!!!
ぼくは思わず草を吐き出して涙目になった。
ぐっ…なっ、なぜだ…?
なぜ、後からおしっこの味がするのだ?
と思っていると、後ろから母が大慌てで駆け寄ってくる足音が聞こえ、ぼくを抱えて草むらから離し、「何してんの!? 全部吐きなさい!」と背中をバシバシ叩かれた。
落ち着いてから、ぼくは聞いた。
「ねぇ、この草、おしっこの味がしたんだけど」
「そりゃそうでしょ! 散歩に来たワンちゃんたちがここでおしっことかうんちするんだから」
なん…だと…?
この事件以来、野菜トラウマになったぼく。
お弁当箱の隅には、しばらくマヨネーズが付くことになった。