文豪たこのくっついて~スミはいて~

おもしろさ第一、役に立つこと第ニ

Tacomi式世界⑬「ポケモンごっこ」

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ぼくが小学校4年生の頃、『ポケモン赤・緑』が発売された。友達の間で「おまえ最初の3匹の中から何選んだの」が流行語になっていたので、すぐ母に「買って買って」攻撃をしかけた結果ダイクマで買ってもらえた。進研ゼミのチャレンジをチャレンジし続けるという口約束をした上で。

 

そりゃあもう、放課後になったらチャリをこいで暗黙の了解の集会所である公民館へ行き、囲碁や将棋をパチパチ打ってるおじいちゃんたちの間でたむろってピコピコしている友達を見つけては、通信ケーブルを使ってポケモンやろうぜやろうぜと対戦したり交換したりしまくっていた。ちなみにぼくのパーティはフーディン6体、かっこいいから。

 

学校は勉強するところだからという目をギラギラさせた先生の圧力でゲームボーイ持参登校は禁止だったが、目をキラキラさせた友達は学校でもポケモンをどうしてもやりたかったらしい。いわゆるだんだんバーチャルとリアルのボーダーラインが分からなくなったのか、そのうちぼくのいたクラスで「ポケモンごっこ」が流行りだした。

 

子どもは遊びを作る天才。中二病ならぬ小二病。おれがおれがの意思が強すぎる男子たちはポケモントレーナーという存在を無視して、休み時間になると自分たちがポケモンになって教室のあちこちで各々が思うファイティングポーズを取り始めた。

 

ポケモンの技は中には現実でもありそうだし出来そうなものもあるから人間でもお手軽に応用が効いてしまう。「おうふくビンタ」とか「なきごえ」とか「かみつく」とか。男子たちは「でゅきしでゅきし」とか様々な効果音を発音しながら技を使ってバトルし始めた。

 

「ひっかく、でゅきし」
「いて。なんの、きりさく、でゅきし」
「いて。てか、おまえの顔的にきりさくは覚えないだろ」
「そんなの知るか、かみなり、ゴロゴロ、ピカ、ドーン」
「いってぇ、じゃあおれはかいこうせん、ピピピピピ」
「ならおれもはかいこうせん、ピピピピピ」

 

どのバトルも最終的にはどっちが強い「はかいこうせん」を撃てるのかというマウントを取るまでバトルが続く。男子なんてそんなもの。そもそもはかいこうせんという技名が小二病の皆さんにしてみたらかっこいいから困る。てかそんなところに男のプライドを注ぐな。案の定アホなことにお互いに人差し指を勢いよく突き出して体に命中させるものだから、お互いに突き指になって保健室送り。まあ保健室送りになるまでやるのはどうかしていると思うが、この頃の休み時間の教室は無法地帯。

 

「いやなおと」とか言って黒板を爪でギーッてやるやつもいれば「でんきショック」とか言ってコンセントのプラグで攻撃してくるやつもいれば「どくガス」とか言っておならするやつもいれば「へびにらみ」とか言って顔を指でいじくり強欲な壺みたいな顔になって笑えと迫ってくるやつもいた。その発想だけは笑ってやる。

 

ぼくはバーチャルの世界にはついていけてもリアルの世界にはついていけなかった。そもそも現実世界では平和主義者だったので野蛮なことはできない。強いて言えば流行り始めの方にオーキド博士役になってくれと頼まれたので「ここに3匹のポケモンがおるじゃろ?」というセリフでしか参加していない上、結局男子たちは自らポケモンになっているのでもういいやと思って一人で妄想を楽しんでいた。

 

「からみつく」とか「したでなめる」が使えたならどんなにいいことだろうと考えていた。どのような妄想かは読者の想像に一任するが、だいたいぼくは「おまえ、エロザルポケモン」と分類分けを勝手にされてポケモン図鑑に見立てたノートに掲載されていたらしい。友達が落書きしていた。見せてもらうとばかうけがベースになっており、異様に長細い顔に殺人を犯しそうな細い目、かもめになった眉毛、うへうへ言ってそうなだらしない口、そしてサルのようなでかい耳をつけ、鼻毛が飛び出た鼻の下を伸ばし切っていた。

 

担任の先生はおばさんで実に児童の扱いがうまかった。チャイムが鳴ると同時に教室に入ってきて一言でポケモンごっこに終止符を打ってくれた。

 

「やめないと、あくまのキッスをするよ」

 

あなたがこのポケモンたちのトレーナーだ。