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おもしろさ第一、役に立つこと第ニ

Tacomi式世界⑩「マツヤニボール」

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 高校の頃、ハンドボール部に仮入部したことがある。1日だけ。

 

仮入部当日のこと。

 

ハンドボールはな、たくさんマツヤニ必要だから。大丈夫、おれが付いてる」

 

休み時間に、前もってハンドボール部の先輩からそう言われた時、ぼくは激しく勘違いしていた。

 

ハンドボール=頑張る体力が必要=マツヤでごはんを多く食べることが必要=一緒にごはんを食べに付いて来てくれる=おごってくれる

 

その時のぼくは、マツヤニがマツヤにしか聞こえていなかった。

 

この連想ゲームの答えにたどり着いた時、「なんて良い先輩なんだ! 一生付いくッス!」と勝手に弟子入りモードになっていた。

 

ハンドボールの練習が終わったあとに、松屋に連れて行ってくれるんだろうと思っていた。

 

そして放課後。

 

とりあえず初日ということもあり、簡単なボール回しに加わるように言われた。

 

「はい、じゃあやる前にこれつけて」

 

先輩が小さな容器を持ってきた。

 

「なんすかこれ?」

 

「さっき言ったでしょ、マツヤニ。これを手に付けてボール投げんだよ」

 

「マ、マツヤニ? 牛丼の松屋じゃなくて?」

 

「はぁ? 松屋なんて言ってないけど」

 

「えー! おごってくれるんじゃなかったんですか! おれカレーがいいです!」

 

「知るか! 何意味不明なこと言ってんだよ、ほらさっさと付けて」

 

幻 滅

 

とりあえず、なすがままにフタを開ける。

 

くさっ!

 

なにこれ。

 

腐ったはちみつをおじさんのワキに塗りたくって汗とブレンドさせた臭いがする。

 

てか、こんなの手に塗るとか超絶無理やん。

 

もう塗るしかない状況だったため、ぼくは鼻呼吸を封印して塗った。すんげえベタベタする。

 

ボール回しの輪の中へ入った。

 

もう掴みやすいとかそういう次元を超えていた。

 

ネバネバし過ぎて納豆化したボールを掴んで投げっこするとかドМなの?

 

ぼくは途中で仮入部を辞める決心をした。

 

「すいません、ちょっと部室に水筒取ってきます」

 

とウソをついて輪から抜け出し、部室へ向かった。

 

道中、マツヤニだらけの黒くなった手を何度もこねこねこねこすり合わせると、卵くらいの大きさのデスボールが出来上がった。

 

この臭いと恨みのこもったボールを、ウソをついた先輩へぶつけてやろうと思った。

 

身体にぶつけるだけの度胸は持ち合わせていなかったので、大きく振りかぶって先輩のリュックの中へ投げ入れ、そのまま帰った。

 

これぞ一方的思い込み犯罪。

 

15年以上経っているし、時効と言えば時効。

 

リュック、臭くさせて申し訳ない。