Tacomi式世界③「百人一首でデュエル!!」(明日から使えるルール付き)
この記事は、こんな人におすすめ
ぼくが小学校6年生の頃、学校で「遊戯王」が流行っていた。
でも、よくありがちな話だが、持ってくることが禁止になってしまったのだ。
ある日、友達が「あれっ、おれのブルーアイズがない! ブラックマジシャンも! ガイアはあるのに! パ、パクられたぁー!!」と泣いて騒いだ。
すぐに、各クラスの先生が裁判長になって学級会が開かれた。
しかし、結局誰も「ごめんなさい。ぼくが盗みました」とは名乗り出さず、「犯人が名乗り出なかったので、今後遊戯王を学校に持ってきてはいけませーん」という法律が出されてしまったのだ。
以降、休み時間が超絶ヒマになった。
紙に、エクゾディアとかサンダーボルトとか死のデッキ破壊ウィルスとかを描いて遊べるようにしようと思ったけど、大量に作らないといけないし、そもそも絵がヘタだし、なにより作業がダルい。
中には「ドッジボールやろうぜ!」「ドロケーやろうぜ!」と誘ってくる友達もいたが、遊戯王ロスになっていたぼくは、そうそう浮気なんかできなかった。
気持ちが切り替えられないまま、机に突っ伏していると、ちょうど女子たちが教卓の周りに集まって、なにやらワイワイ盛り上がっていた。仲間外れにされたくなかったので、ちょっと行ってみた。
「ねぇ、何かやってんの?」
「みんなで百人一首してんの」
「ひゃくにんいっしゅ?」
見た感じ、カルタみたいな感じだった。
「ちょっと見して」
人垣の間から教卓の上に置かれた札を覗いてみと、見覚えのある顔があった。国語とか社会の教科書で、こんな顔の奴らに落書きしていたことを思い出した。
「ほら、これ天智天皇だよ」
ぼくの横にいた女子が、目の前に置かれた札を指さして教えてくれた。
「てんちてんのう?」
「そう。ほら、こないだ社会の授業でやったじゃん、大化の改新をした人」
あー…グラサン描いてから、持ってる木の棒みたいなやつをマイクに変えてタモリ天皇にした奴か。
「見て見て! こっちは小野小町だよ」
「おののこまち?」
「世界三大美女って言われてるんだよ!」
あー…なんか口ヒゲとあごヒゲ描いて、吹き出しで「おれが小町」とか書いたっけな。
ん? てか、待てよ……百人一首ってことは、これ全部で100枚あるのか。ってことは、50枚と50枚に分けたら、デッキが2つ作れるってことじゃん!
ぼくはすぐ、あの恋しかった遊戯王を思い出していた。
「ちょっとこれ、次の休み時間に借りるわ」
次の休み時間。
ぼくは机同士をくっつけて友達を呼び、「デュエルしようぜ」と勝負をしかけた。
「おいおい、それ百人一首じゃん」
「百人一首でもデュエル出来るんだよ」
「そうなの…?」
早速、遊戯王の要領で山札を2つに分けて、そこから5枚引いて手札にした。ぼくは、この感覚がうれしくてたまらなかった。
「じゃあ、おれからね。持統天皇を守備表示で召喚!」
あ。
問題が起こった。そういえば、この札には絵は描いてあるけど、攻撃力も守備力も書いていない。書いてあるのは、よく分からない言葉だけ。うっかりしてた。これじゃ勝ち負けのつけようがない…。
「じゃおれのターンね。えーと、清少納言を攻撃表示で召喚! って感じでいいのか? で、ここからどうすればいいんだよ?」
どうしよう。学校のものだし、攻撃表示とか手書きで書くわけにはいかないし…。
あ。
いいことを思いついた。
「じゃあさ、3人でやることにしてさ、2人が戦って、1人が審判ね。まず、お互いに山札から一枚オモテにして出し合ってさ、絵の横に書いてある、よく分かんねぇ言葉をおもしろく訳せた方が勝ちってのはどう? 判定は審判がやることにしてさ。テストにも役立つし、最強じゃね?」
遊戯王のルールとはだいぶ違うけど、ぼくの意見はすぐに賛成になった。
最初は、正しい訳が載っている教科書を見ながらやっていたけど、訳を覚えてくると、だんだん自分なりのアレンジを利かせることが出来るようになってくる。
ぼくたちのクラスでは、遊び方が違う百人一首が流行しだした。
教科書に書いてある訳を丸暗記してデュエルする奴がいたけど、それだと直訳過ぎてつまらないから、ジャッジで負けになることが多かった。
ぼくは、自分たちなりの超訳の方がおもしろいと思っている。
例えば、柿本人麻呂の「あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の 長々し夜を ひとりかも寝む」なら、教科書に書いてある訳には「山鳥の尾の、長く長く垂れ下がった尾っぽのように長い夜を独りさびしく寝ることだろうか」になるけど、これだとちょっとおもしろくない。
だから、「やっぱさ、おまえがいないとさ、夜の長さがちげぇんだわ…あーもー! さみしすぎて長く感じてんだよコラァ!」って、ぼくなら訳していた。
他にも、河原左大臣の「みちのくの しのぶもぢずり たれゆゑに 乱れそめにし われならなくに」なら、教科書に書いてある訳には、「陸奥で織られるしのぶもじずりの摺り衣の模様のように、乱れる私の心。一体誰のせいでしょう。私のせいではないのに」になるけど、やっぱりイマイチ。
だから、「おれの心がさ、こんなにワサワサドキドキしてんのはさ、誰のせいだと思う? そう! 君のせいだよ、き・み・のっ!」って、ぼくなら訳していた。
というふうに演技して訳すと分かりやすいし、ワンチャン笑いが起きるし、笑いを取った方も満足感にひたれる。
肝心の意味だって、決して間違っていない。
みんな「いかにおもしろくちゃんと訳せるか?」をおもしろがってくれて、女子も男子も、休み時間は額を寄せて百人一首でデュエルしている光景が日常的になった。
結局、国語の勉強にもなったし、遊戯王がなくても遊べることに、先生は泣いて喜んでくれていた。
ちなみに、「やってみたい」という人に向けて、ぼくたちの作ったルールをまとめると、こんな感じだ。
★『百人一首デュエル』 ルール★
①最少人数は3人。2人が対戦し、1人は審判になる。でも、人数が多くてもOK。例えば、2人が対戦し、10人が審判になるでもOK。
②2人で50枚と50枚に分ける。だけど、ダルいのであれば数枚でもOK。ただし、山札の数は、例えば10枚と10枚にするなどして、2人とも公平になるようにする。
③先攻と後攻を決め、せーのでお互いに山札の一番上から1枚札を取り、表にして出す。
④先攻が自分で出した札の和歌をおもしろく訳す。後攻も同じくおもしろく訳す。ここでは恥を捨てて演技する。もし見ている人がいれば、必ず拍手をしよう。
⑤審判が、どちらがおもしろかったかを判定する。審判が複数いるなら、多数決でもOK。
⑥勝ったらその場に出ている札を自分のものとして山札の横に回収し、ポイントにする。なので、勝ったら2枚もらえるから、2ポイントとなる。もし、引き分けだったらお互いに自分の出した札を山札の横に置いて、1ポイントずつもらえる。
⑦最終的に、山札の横にある札の枚数が多い方が勝ち。